新年度に向けた攻めの組織準備「8つの定義」と「5の知識」

年度末は、1 年間を振り返り「良かった点」「悪かった点」をしっかりと把握し、新年度を考察する良いタイミングです。しかし、振り返りも大切ですが、早々に新年度への組織準備も進めなければなりません。新たな気持ちでスタートダッシュを切るために、定義と知識を確認して先手を打ちましょう。

組織作りは「定義と教育」

私たち「組織コンサルの会」は、中小企業の組織作りは「定義と教育」にあると確信してサポートしていますが、これが徹底できれば組織は健全に動き出します。

新年度の戦略方針やテーマ、各組織の役割、管理職に求める使命、新人の育成など、しっかりと準備して進める必要があります。新方針を打ち出したり、組織の定義を変えたりすると多少の混乱が生じますが、その時間を短縮して成果を生み出すことが目指す組織作りで〝攻めの組織準備〟と言えます。本稿では、特に重要と思われる、

・「組織定義」
・「管理職育成」

について解説します。

「組織定義」新年度の組織構築の指針を伝える。

組織には、経営者から (もしくは周囲の組織から)期待される使命があり、それを果たすために戦略を持たなければなりません。

しかし、機能していない組織は基本となる「定義」ができていません。業務内容だけは決まっているのですが、自分たちが達成すべき本当の使命や戦略が定まっていないのです。

本来は、組織の末端にいる社員を含めて、全員が組織の基礎となる「8つの定義」(表1)を理解しておくことが、組織に一体感を持たせ、成果を上げる源泉となります。

この定義で大切なことは、これらを経営者(会社側)が一貫性を持って社員に語れることです。それがバラバラでは効果が出ませんし、社員は会社を信用してくれず一貫性のない会社だと思われてしまいます。

そして、8つの中で特に大切なのが「③戦略」「⑥能力」「⑦教育」になります。

組織の基礎「③戦略」

戦略は「社員を勝てる気にさせる」ために必要な項目です。勝てる気がするなら人は頑張りますが、勝てる気がしないと人は頑張りません。したがって、実際の戦略も重要ですが、それをわかりやすく社員に話し、その気にさせる戦略も大切になります。ただし、実際の戦略をすべて社員に話す必要はありません。

組織の基礎「⑥能力」

「能力」を伝えることは重要ですが、能力は、単にスキルや知識だけではありません。ときに「求められる精神年齢の高さ」や「ものの考え方」まで、定義することになります。

多くのケースで「人の内面」の話には、躊躇して定義することをしません。実は、それが原因で価値観が統一されず組織がバラバラになり、一致団結して戦う姿勢にならないのです。内面に関わるポイントを統一するには「皆が、そうなれば必ず勝てるから」という言葉を、きちんと伝えられるかにかかっています。

以前、私がデザイン会社を経営しているときに「明るい会社になろう」と社員の内面に関わる話をしました。すると、素直な若手社員の一人から「私は暗い性格なので社長の方針には従えません」と返答が来ました。

そこで「説明不足ですまなかった。デザイン会社の中には静寂なイメージのところもある。でも、明るくすることで売上が向上する実例もある。だから、できる範囲でいいので明るく努めてくれ」と伝えると「そうであれば頑張ってみます」と前向きに考えてくれました。

つまり「会社において売上が上がることに協力しない」は、あり得ないと理解したのです。

基本、会社は利益追求の場所であり、皆、生きるために働いています。一致団結し、アドバイスし合い、より高い利益を得ることが全員にメリットをもたらします。それを理解していれば「全員で能力を身に着けよう」という方針も受け入れてくれます。

言葉は悪いですが「〝全員〟で儲けよう」という雰囲気になると組織問題はあまり発生しなくなります。〝全員〟が外れると、社員同士、経営側と社員間のぶつかり合いが起こり、人間関係に問題をかかえることになります。

当然、人は各々違う性格を持っており、すべてが統一されるわけではありません。しかし会社は、異なる思考を持つ人間が集まり、同じゴールを目指しているのです。そして、会社の一番短期的なゴールは「今年度の利益」で、そのゴールに向かい良い成績を残し、それを続けられれば社員の給与もボーナスも増えることになります。

お金が働く理由のすべてではありませんが、多くの人が生活のために会社に来ています。全員で力を合わせて稼ぎ、自分の収入も高めてください。年始にその意味を改めて社員に伝えることも大切なアクションだと思います。

組織の基礎「⑦教育」

例えば、前項の「能力」に記したような話を教えることも、社員教育の一つであると考えます。働く人が持つべき基本的なマインドセットを伝えることです。これは新人教育にも関連する話ですが、近年では入社してくる若手社員(20代)の「幼児性」や「世間知らず」が問題視されています。

社会人としての基礎教育は学校や家庭では行われていないので、会社が実施するしかありません。会社の意味、働く意義、将来にわたってどうすれば思い通りに生きていけるのか、そうしたキャリアデザインを教えるのが社員教育のメインになります。
 
8つの定義で言えば「何をすれば評価され、出世もできて、給与も上がるのか」明確に伝えてください。会社の目的・目標から戦略、実務、必要能力を提示し、それを実践した人が高い報酬をもらえる、その一貫性です。まさに「この会社の歩き方」のような話を準備して社員に伝えてください。

「管理職育成」役割を理解してもらう

新任課長に必要な5つの知識

新任管理職の育成も、とても重要であり準備が必要です。

中小企業の場合、管理職が機能するかしないかで成果と成長が大きく変わります。しかし、機能していない管理職がいるのも事実であり、理由は明確で昇格した時点で何も教えていないからです。

「長く働いてきた、給与も上げてあげたい、課長にしよう」という恩賞的昇格が起き「課長は何をする人か」の定義ができていないのです。貴社では「部下の面倒をみてくれ」の一言で済まされていませんか。

本来、課長(小規模企業であれば部長)には明確な役目があり、それに伴うスキルも必要で、教えていなければ当然、何もできません。新任課長研修を行っていない場合は、是非、表2に挙げたことだけでも伝えてください。では、以下で詳細を解説します。

①課長の仕事は「実行管理」(マネジメント)

仕事は本来「企画して、実行する」だけです。しかし、人は弱いので、部下の仕事を管理する「実行管理」という仕事が生まれました。これが課長の仕事です。「決まったことをやり切る」そして「部下にやらせ切る」それが仕事です。

仕事ができない部下がいれば教え、士気が下がっていればモチベーションを高め、一人で突破できない部下がいれば同行し、課題があるなら解決し、とにかく決まったことをやらせ切る。それを「マネジメント」と呼び、課長の第一の仕事となります。

②課長の仕事は「提言と翻訳」

では、マネジメントだけでいいかというとダメです。現場の状況を判断し、会社の上層部に対して「提言」をするのも課長の仕事です。

例えば、会社の戦略や方針が変わり仕事量が一気に増えるなど、自分の課に大きな影響が出る場合には、先んじてそれを予測して経営や他部署に働きかけ、仕組みを変えるなど、自部門を守ることをしなければなりません。

これがリーダーシップであり、さらに、経営側からの指示を部下に伝えるのも、もちろん課長の仕事です。私たちは、この仕事をあえて「翻訳」と言っています。単なる「伝達」ではありません。

経営からの指示は大抵説明不足で、行うべきアクションしか指示されません。それをそのまま現場に伝えると指示の意味や狙い、背景がわからず、納得しないままで現場が動くことになります。これでは成果が出ません。経営の指示には含まれていない目的と背景を付け加え、現場のヤル気を引き出す伝え方(翻訳)を行うことも課長の仕事となります。

③課長の仕事は「部下の報酬を高めること」

これを多くの課長が意識していませんが、課長は部下の報酬を高めるために存在します。この気持ちがないと部下は「この会社は給与を上げる気がない」「何をしても報酬は上がらない」と思ってしまいます。中には、それが理由で転職する社員もいるはずです。

本来、会社は「成果を出す社員にはしっかり報いる」はずであり、実際にそうです。不幸なのは、部下がそう感じておらず「どんなに頑張っても報酬は上がらない」と思ってしまうことです。理由は上長が伝えていないからです。

報酬制度との兼ね合いもありますが、いい仕事をする社員を冷遇する会社はありません。何をすれば評価されるのか、どうすれば成果が出るのか、どこまでやれば報酬が上がるのか、それを伝えるのが課長の役目です。

④課長と部下は「師弟関係」

課長と部下の関係で、理想的なのは「師弟関係」であると言われます。強い信頼関係を築き、部下にこの業界で生きていける実力と人間性を教え込んでください。

何かのご縁で部下の人生の一端を課長は握ることになります。この社会で生き抜ける実力を付けさせるのが課長の仕事となり、そのポイントは2つあります。
 
1つ目のポイントは「信頼関係を築く」ことです。何がなんでも部下からの信頼・尊敬を得てください。師匠となるのですから、すべてはそこからです。人として、仕事人として、どうすれば尊敬されるのか。この大きなテーマを自分で考えなければなりません。

2つ目のポイントは「伝えるべきは、伝える」ことです。最近の若い課長は相手を慮り過ぎて、部下にものが言えないケースも多く見受けられます。「信頼関係が壊れそう」「パワハラになるから」など言い訳はたくさんありますが、むしろ伝えない方が問題は大きくなり、人間関係も成立しません。しっかり部下の将来のことを思って、伝えるべきことは伝えてください。

ただし、怒る必要はありません。普通に伝えれば大丈夫です。部下は単に知らないだけで、悪意がある訳でも、サボっている訳でもありません。知らないから何もできないのです。

⑤課長は「フルマネージャー」を目指す

すでにお分かりかと思いますが①〜④までの業務は、とても骨が折れる内容で困難です。部下を理解し、部下を動かし、部下を育て、やるべきことをやり切らせて成果を出す。実に大変な仕事で時間も要しますが、それが課長です。

実は、中小企業の多くの組織問題は、課長が「プレイングマネージャー」である点にあります。課長自身が担当実務とノルマを持っているため自分の仕事でパンパンになり、部下の面倒も管理もできない状況にあるのです。面倒を見てくれない上司の下では、部下の成果は高まらず、悩みも相談できず、いずれは退職していく状況に向かうのは当然のことです。

成果を出さなければいけない現実は理解しますが、課長がフルタイムでマネジメントをやれる「フルマネージャー」にならなければ組織は一向に改善できないでしょう。これには1〜2年かかってもいいので、課長自身が「フルマネージャーになる」ことを強く意識して、部下が一定の成果が出せるような体制に変えていくしか、変革の方法はありません。

ただし、部下の人数が4人以下の場合には、生産量の観点から課長はプレイングマネージャーにならざるを得ないので、組織編成の熟考が必要となります。

まとめ

以上、年度末に行うべき〝組織準備〟について述べさせて頂きました。これは、組織作りの本質でもあります。

組織作りは、非常に統合的な施策であり「魔法の杖」のような施策はありません。事業戦略に基づいた組織を設計し、現場の基礎教育(幼児性や世間知らずの排除)を実施して管理を継続していく、その体制が確立できれば必ず生産性は高まっていきます。

新型コロナウイルスの影響で空白の2年間が生じてしまった今だからこそ、企業は経営者と社員が一致団結して、この苦難を乗り越えられるよう2022年度に挑んで頂きたいと願っています。

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